今日、希望のタネを蒔きました

療育現場の所長日記です。

答えは出せなくても・・・。

カウンセリングの現場では、Aですか?Bですか?と聞かれる場面によく遭遇します。
相談業務に携わる人(心理、医療、福祉、教育など)の養成課程では、相談員はクライエントが答えにたどり着くための援助を行うようにと教え込まれますので、安易な答え方はできません。ただ、本当に迷う事例もある…。

ここはアフリカのサバンナです。ライオンの兄弟、ライ太とイオ斗は放浪の旅に出ていました。兄のライ太は弟のイオ斗をいたわり、ほんの少しの食べ物も分け合いながらの旅でした。

この二人(いや2頭)がなぜ、このような旅をしているかと言うと…。
それは、ライオン界の掟のためでした。ライオン界には、有名な「ライオンの子殺し」という掟があります。ライオンは通常、群れで暮らしていますが、ある日突然、若い雄ライオンが現れ、群れのボスライオンに戦いを挑んできます。突然現れたライオンが勝利したあかつきには、ボスライオンの妻ライオンを手に入れ、ボスの血族である子ライオンをすべて殺してしまうのです。

ライ太とイオ斗も目の前で父を殺され、妹たちも噛み殺されてしまいました。本来なら、同じ運命をたどるはずだったのですが、優しい叔母たちが機転を利かせ、逃がしてくれたのです。

ライ太はこれからどうやって生きるべきか、真剣に考えました。そのとき、親友のゾウ吉が言っていたことを思い出したのです。本来、草食動物のゾウ一族とサバンナの王、ライオン一族はつきあいがないのですが、共通の趣味である水浴びを通じて、ライ太はゾウ吉と知り合ったのです。ゾウ吉は長い鼻で、得意のシャワーもしてくれました。お互い、のんびりした性格だったので、二人(いや2頭)は親友になりました。

ライ太、きみはずっとサバンナにいるのかい?

うーん、どうだろう…?でも、ここに生まれたからここにいるしかないんじゃない?

明日の命もわからないこの世界でかい?


サバンナ以外の世界なんか想像したこともないライ太はびっくりしました。


ゾウ吉、おまえはどうするんだい?

ぼくはね、ぼくは…動物園に行きたいんだ!

動物園?

そう、動物園。そこはね、世界中の動物たちが集められていて、みんなそれぞれの家があるんだ。何もしなくても毎日、食べ物も運んでくれる。自然界で生きる雄ライオンの寿命は10年くらいだけど、動物園だと20年くらいのもいるらしい。

へぇ〜!そんな夢みたいな所があるのかい?

もちろん、いいことばかりじゃない。家だってコンクリートでできた狭い所だし、ここみたいに温かくもない。送られる国によっては、寒すぎて体調を崩す可能性もある。何より、死ぬまで自由にはなれない。

そうか…。いいことばかりじゃないんだね。


サバンナを彷徨うライオン兄弟。もっともっと強くなって他の群れを襲い、そこのボスライオンを倒してその群れの王になる。それがこの兄弟が生き残る最後の道だ。でも…。王でいられる時間は短い。いつかはもっと強いライオンが現れて、自分たちは倒される。これがライオン界の宿命だ。それならば…。ライ太の胸に一つの決意が芽生えました。

ライ太はイオ斗にゾウ吉の話を聞かせました。
するとイオ斗は…。

兄貴、そんなこと本気で考えてるのか?

だって、動物園なら食うか食われるか、ヒヤヒヤドキドキのストレス社会から脱出できるんだよ。

はぁ?オレはごめんだね。そんな見たことも聞いたこともない異国の地で、人間様に媚びへつらって餌を恵んでもらうようなみじめな生活はしたくない。

イオ斗、よく聞け。このままサバンナに残って、仮にどこかの群れを乗っ取っても、それは一時的なことだ。多少の不自由と引き換えに平和と安心を得る、これは動物界の格差社会を乗り越える唯一の方法なんだよ。

じゃあ兄貴はその動物園とやらに行けばいい。オレはそんな不自由には耐えられない。明日の命や食べ物どうこうより、ライオンに生まれたからには王になる!そしてライオンらしく死んでいきたい。


いかがでしょうか?ライ太とイオ斗、どちらの言い分も正しいのです。先生、ライ太のように生きるべきですか、それともイオ斗?と聞かれても、本人に選んでいただくしかないのです…。
ただ一つ言えるのは、その人の向き不向きはあるかもしれません。例えば、生まれつき寒がりの方が南極旅行を楽しむことは難しいですし、いくら刺激がほしいと言っても、高所恐怖症の人がジェットコースターに乗ることは辛いと思います。

ちなみに動物園を志望したライ太ですが、某霊長類界同様、現在は「冒険より安定」を求めて、志願者(いや志願動物)が多く、かなりの競争率だとか。いくつもの動物園訪問を重ね、エントリーシート記入、面接練習の毎日だそうです。

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